中川死刑囚、金正男暗殺にVXが使われたと指摘
2017年2月13日、金正男氏がマレーシアで殺害されたとのニュースがありました。
北朝鮮の故金正日総書記の長男で、金正恩・朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏が13日午前、マレーシアの首都クアラルンプールの国際空港で殺害された。女性が後ろから「液体を含んだ布」を持って近づき、正男氏の顔を覆ったという地元報道もあり、毒殺の可能性が指摘されている。
北朝鮮は正男氏の死去についてコメントしていないが、駐マレーシアの大使館関係者が、正男氏の遺体が運ばれたクアラルンプールの病院を次々と訪れている。
このニュースが出て約10日後、確定死刑囚・中川智正さんが、金正男の暗殺にVXが使われた可能性を東京拘置所から指摘したという報道が出ました。
私は確か、2ちゃんねるのこのようなスレッドを見て、苦笑したのを覚えています。
http://dechisoku.com/article/464385106.html
説得力ある!
さすがだわ!と思いました。
しかし、なぜ確定死刑囚が拘置所から自分の見解を指摘できたのか?というのが皆不思議に思っていたところだと思います。
中川智正さんは、金正男の死因の記事を読んだだけで、殺害に使われた毒物がVXだと思い、自分の弁護士を介して、特別に交流の許されている毒物学者・アンソニー・トゥ博士にメールを送ったのでした。
このメール内容が、アンソニー・トゥ博士とも交流のある毎日新聞の岸達也氏にも共有されて、2月25日の朝刊と夕刊で反響が大きい記事となったのでした。
では、中川さんはなぜ、VXが使われたと考えたのでしょうか。
そもそも、VXとはどのような物質なのでしょうか!
「VXは最強の化学兵器だ!教団はこれで闘っている!」と言ったほどの
最強の化学兵器です。
アンソニー・トゥ博士が受け取ったメールの原文を以下に掲載します。
先日、金正男氏がマレーシアで殺害され、VXが使用されたのではないか、という報道がありました。
正確な情報が入手できませんが、報道されている金氏の症状からしてVXであっても矛盾しないと思います。
金氏は目の痛みを訴えているようで、
目にVXを付着させたのであれば、痛みは当然ですし、
呼吸が早く症状が出て空港内で亡くなってもおかしくないと思います。
単に皮膚につけただけでは、教団がおこなった事件の時は発生までに1~2時間はかかっていました。
また、金氏は口から泡を吹いていたそうです。
VXは気道の分泌物を増加させますので、これもVXの症状と考えて矛盾はありません。
VXは猛毒と言われますが、サリンと比較すると気化しないので、取り扱いは容易です。
私がVXを取り扱う際には、長袖の普通の服に手袋をつけただけでした。
ですので、金氏の件での実行犯が自分の手袋に薬液を塗ってそれを金氏に付着させたという報道も、薬液がVXであればおかしくありません。
これがサリンであれば実行犯も確実に中毒します。
VXは肝臓で代謝されるので、マレーシアの当局が血液や尿、顔面への付着物のサンプルのほか、肝臓のサンプルを残していれば良いのですが。
脳にのこっていれば神経細胞に結合したVXを直接検出できるかもしれません。
アンソニー・トゥ『サリン事件死刑囚 中川智正との対話』2018年。216頁より
中川智正さんも、自分のメールが日本中にも、海外にも反響があったことを知って喜んでいたそうです。それで2017年4月にトゥ博士が面会した際
「これからもお役に立てる文を書きたいけれど、どういうところを強調したらよいか」
と相談されました。トゥ先生は
「化学的なことより、人間に対するVXの症状、その治療法などについて書いた方が役にたつ」とアドバイスしたとのことでした。
中川智正さんは、VXの製造には関与していません。
しかし、VX製造に関与している信徒が中毒になったときや、オウム真理教のVX殺害事件のすべてに医療役として関与しています。
VXを知り、VXを実際扱ったことのある人物なのでした。
その人物が世界の役に立ちたいと申し出たのでした。しかも確定死刑囚の立場で。
それで後日マレーシア政府は注意をして、国連を通じて中川さんに問い合わせがあったとのことです。
おそらくその文章が、『ジャム・セッション』第12号 2018年1月発行掲載の
「マレーシアでの神経剤VXによる金正男氏の殺害について」
と掲載されている文章になると思います。
こちらの日本語文は、『ジャム・セッション』のサイトが消されてしまったために
現在見ることができないので、スクリーンショットを掲載します。
こちらの英文版はまだネット上にあります。
日付がジャム・セッション掲載のと同一なので同じことが書いてあるのだとみてよいと思います。
この文章を基に、さらに中川智正さんは、気力を振り絞るように英語と日本語の化学論文執筆をしていきます。
この頃、高橋克也さんの裁判も終わりに近づいていたことでもあり(2016年9月7日に高裁で一審の無期懲役が支持され、2018年1月18日には最高裁で判決が確定することとなる)、中川智正さんとすれば、自身の死刑執行が近づいてきていることを意識しながらの、論文執筆だったと思います。