僕は二つの世界に住んでいる

現代社会と科学の空白に迷い込んだ人物を辿るブログ。故人の墓碑銘となれば幸いです。

「あなたは本当にグルなんですか」

昨日に引き続きエントリーです。

タイトル「あなたは本当にグルなんですか」。

これは、1999年11月10日の杉本繫郎・豊田亨の公判にて、証人出廷して、不規則発言をし続けた麻原に対し、杉本繫郎・豊田亨の二人がそれぞれ自分たちの思いをぶつけた時のことです。

人間関係を図にしました。

 

本当はここを中心にオウム裁判を描いたら、当時テレビでオウム裁判の報道に接していた人も、オウム事件を知らない人もわかりやすいものとなるのではないかと思います。

資料は、降幡賢一氏『オウム法廷10 地下鉄サリンの実行犯』

オウム法廷〈10〉地下鉄サリンの「実行犯」たち (朝日文庫)

Amazonの古本で、3500円。

再刊されない本は高いですね。そして『オウム法廷』シリーズは図書館にも置いていないことが多いので、今回はその問答の様子を、長くなりますが、紹介していきたいと思います。

 

法廷での麻原彰晃の様子は、青沼陽一郎氏の著書に詳しいです。

オウム裁判傍笑記 (小学館文庫)

動画でもありますので、そちらも掲載します。

 

 

動画のように不規則発言をし、自分は無罪ですべて弟子がやったことだと、英語を使いながら主張していました。

 

1999年9月22日の杉本繫郎・豊田亨公判から2回出廷したのですが、9月の時に、すでに

杉本繫郎さんは天界にいるとか、豊田亨さんは中華人民共和国に生まれ変わっているなどと発言をしていました。

 

この日は、麻原彰晃の不規則発言で午後5時になりました。公判が終わろうとした時に、被告席の杉本繫郎さんが麻原に対し、問いかけを始めました。

それから約1時間の間のやりとりになります。このシーンだけでも知った上で、さらに昨日のエントリーで紹介した杉本繫郎さんの手記を読むのに役立ててほしいです。

 

杉本:「杉本から伺います。杉本はわかりますか。」
麻原:「ガンポパ正悟・・・、ガンポパの声が出てますが。」
杉本:「ガンポパということも分かりますね。それともあれですか、天界の杉本と言っ  たほうがよろしいですか。」
麻原:「・・・・天界、いいでしょう。天界の杉本君しかわかりません、私にとっては」
杉本:「じゃ、前回の証言(注:1999年9月22日)あなたの空中浮揚の写真の写真のことで、弁護人から聞かれましたね。誰が撮ったのかというふうに、ご記憶ありますか。」
麻原:「空中浮揚については、杉本君が1986年に見てるはずですから、それを順に見たものを投影してください」
(中略)
麻原:「(英語での説明をやめようとしない・・・)」


杉本:「質問がかわるんですけれども、何度か質問が出た地下鉄サリン事件で、井上嘉浩君が、地下鉄サリン事件を持ち込んだ話だとか、あるいは井上嘉浩君が暴走したということを今日申しましたね。あなたがそうおっしゃっている根拠は何なんですか。

(中略)それで遠藤君は、あなたに条件が整えばサリンが出来るのではないかと答えたと証言してるそうですけれども、あなたの口から遠藤君という名前は出てきませんね。井上君、あるいは村井さんですね。なぜ井上君なんでしょうか。」


麻原:「えっ、何がでしょうか」


杉本:「地下鉄サリン事件の話の中で、遠藤さんの話は出てこないけれども、井上嘉浩君と村井秀夫さんの名前が出てくると。それは何らかの根拠があったからあなたはその人たちの名前を出しているんじゃないかと思うんですけれども、その根拠は何なのかということがお聞きしたいんです。」


麻原:「(小声で何事かブツブツ)」


杉本:「例えば、あなたの法廷で、中川君が、井上君にジフロを預けていたというような証言をなさったそうなんだけれども、それが根拠になっているのか、あるいは井上君のほうから具体的な話があって、あなたの記憶の中に残っているのかということがお聞きしたいんですよ。あなたの記憶ではどうですか。単に中川君があなたの法廷で言ったことを前提にしているのか、それともリムジンの中で井上君が何らかの発言をしたから、井上君が暴走したということをあなたが言っているのか、どちらなんでしょうか。」
麻原:「(英語で説明。何も言うことが出来ないという意味のことを言い、最後に)アイム・ソーリー」
杉本:「すみませんということですか。よく答えられないということですね。それは、じゃあ」
麻原:「答えられないと、使っちゃいましたから・・・」


杉本:「私とあなたは割と長くお付き合いがありましたね。運転手とか私がやっていたから。私が運転手をやっていたことは覚えていますね。」
麻原:「何が覚えてるんだね・・・・」


杉本:「あなたが何かを言うときは必ず根拠があるはずなんですよ。だから何らかの会話がそこであったんではないかと思えるんだけれども、あなたの記憶ではどうですか。」
麻原:「(意味不明ブツブツ)」
杉本:「特に記憶はよみがえってきませんか。それとも今記憶を呼び出していらっしゃるのか、どちらですか。」
麻原:「(ブツブツ)」
(このあたりで豊田亨が盛んに小首を振っている)


杉本:「じゃ、もうそれで結構です。それで、先ほど弁護人の方から冨田さん(元信徒。麻原の命令により杉本らがリンチ殺害した人)を殺害したことを私が報告したということを弁護人の質問でお答えになったんですけれども、あなたは場面を混同してらっしゃいませんか。私が報告したのは、地下鉄サリン事件の後にあなたの元に帰ったときに、新實智光があなたに報告していたんだけれども、ちょっとろれつが回らない答えをしてしまったので、私が代わりに答えたと。多摩川で衣類を燃やしていたから遅くなりましたというふうに答えたその場面と、冨田さんのことを報告した場面とをあなたは混同していませんか」
麻原:「(無言で、チッチッと音を立てる)」
杉本:「どうですか、思い出せますか」
麻原:「(無言)・・・・・」


杉本:「思い出せないんでしたらもう結構です。もうあんまり時間もないので用意していたこともあまりお聞きしませんでしたけれども、あなたは前回、教団関係者が地下鉄サリン事件に関与したことを認める証言をしましたね。そのことによって、信者の間に動揺が広がったというニュースは、拘置所のラジオのニュースで知ってますね」
麻原:「(何かブツブツ)」
杉本:「あなたは、前回、自分のことをオウム真理教の代表かつ教祖と答えていますけれども、あなたは今現在、いまだに自分が教祖のつもりでいらっしゃるんですか」
麻原:「私ですか」
杉本:「・・・はい」
麻原:「それは、オウム真理教が存在していれば教祖ですね、本当のオウム真理教があれば」
杉本:「じゃ、存在していなければもう教祖じゃないということですか」
麻原:「存在してないなら教祖とは言わないですね」
杉本:「でも、もう既にあなたがそういう発言する前から教団関係者から切り捨てられてるんじゃないですか。」
麻原:「・・・・」


杉本:「なぜかと言えばね、あなたが二年半前に、地下鉄サリン事件は村井さんと井上君に押し切られる形になったという発言をしてますね。もし本当に教団の関係者に動揺が走るのであれば、そのときでなければいけなかったんじゃないですか」
麻原:「うんと、それは宗教ですね。つまり。(再び英語の説明を始める)」
杉本:「それはもう前回、わかりましたから、お聞きしていますから」
麻原:「(構わず英語説明)・・・」
杉本:「それで、教団関係者においては、意見陳述であろうが、証人としての証言であろうが、あなたの尊師としての言葉ですよね。その言葉に違いがあったのは何故だと思いますか。」
麻原:「うん?何でしょうか」
杉本:「意見陳述の際にあなたが発言したことと、前回この法廷であなたが発言したこととの内容はほぼ同じなわけでしょう。にもかかわらず、教団関係者の間に反応が違ったというのはどういうことなのかお聞きしているんですよ」
麻原:「わかんないな」

(中略)
杉本:「要するに、あなたは教祖としての名前があっても、その言葉の力というものはもう既に失ってるということですよ。そのことにあなたは気づかないのかとお聞きしているんです。」
麻原:「(英語説明に変える)」
杉本:「今の教団の幹部の者たちにとっては、一部の者たちにとっては、あなたよりもあなたの教義の方が大事だと、だからこそ今回は反応が違ったんだと、そうあなたは考えませんか。」
麻原:「(小声でブツブツ)・・・」
杉本:「言っていることがわかりませんか」
麻原:「うん」
杉本:「脳が破壊されているから、言っていることがわからないんですか」
麻原:「・・・えっ、オウム、・・・悲しくなってくるよ、オウム、オウム・・・」
杉本:「あなたは最終解脱なさったわけですね」
麻原:「わかった。・・・うん・・・」
(中略)
杉本:「あなたね、いい加減にもう目を覚まして現実というものを認識したらどうですか。いつまでも最終解脱者だとか、教祖とかいう幻影に溺れててもしょうがないでしょう。
麻原:「・・・・(突然沈黙する)・・・・」
(中略)
杉本:「それから、あなたご自身、被害者の方々に対してどう考えているんですか。」
麻原:「(腹を立てた様子で杉本に向って)おい、でもあんまりペラペラ言うと・・・私に対する。お前、黙ってた方がいいと思うけどな。(中略)遠藤にいわれて私に対して始めにLSD使っただろう。私が知らないと思っているのか、そういうことを」
(中略)
杉本:「あなたが事件に関与したかどうかは別として、自分の弟子が事件に関与したことについて、どう考えてらっしゃるんですか。」
麻原:「・・・・・」


杉本:「あなたはかつて、他の苦しみがわからなければ、人を救うことは出来ない。あるいは他を救済することはできないと、私たちにも説いて聞かせてくれましたね。今現在あなたは、地下鉄サリン事件、あるいは一連の事件の被害者の方々の苦しみとか悲しみ、そしてそして怒りというものがわからないんですか。あなたの教義では、ステージが高くなればなるほど、他の苦しみに対して敏感になるんじゃなかったんですか
麻原:「・・・(左手でひげをしごきながら、無言)」
杉本:「そういうことを真剣に考えたことが、あなた、ありますか。もし、あなたが最終解脱者だとしたならば、誰よりも人の苦しみというものがわかるはずでしょう。それがなぜわからないんですか、あなたは。
あなたは救世主だったはずですよね。」
麻原:「・・・・・」
杉本:「また、あなたがこの世に生をうけたのは、生きる者を苦しみから救うためだったのはないんですか。」
麻原:「・・・しましたよ・・・・うん」
杉本:「だったら、あなたから被害者の方々に対して、何か言うべきことがあるんじゃないですか。」
麻原:「(突然)ゴー・ツー・ヘブン(と叫んで、英語説明を始める)」
杉本:「私も豊田君も同じ気持ちだと思うんだけれども、今現在も被害者の方々に対して、何と申し上げていいのか、その言葉すら見つけられないんですよ」
麻原:「(英語説明の続き)」
杉本:「私たちは、どうすれば被害者の方々に対して償いをすることができるんですか」
麻原:「(意味不明)」
杉本:「私たちがたとえ刑に服しても、それではポイにならないでしょう。一体私たちはどうすればいいんですか。何をどうすれば本当の意味で償うことが出来るんですか。私はどうすればいいかわからないけれども、しかし、あなたの、最終解脱者の知恵というものをもってすれば、お答えがいただけるんじゃないですか。それとも、ただあくびして、ぼーっとしてるだけですか
麻原:「(小声の英語説明)」
杉本:「自分の都合の悪い質問になるとお答えが出来ないんですか。それとも、一体どうすればいいですか、私たちは」
(中略)
杉本:「私たちは、自分をごまかして、現実から逃避することが出来るんですよ。あなたもそうでしょう。今現在、現実から逃避しているだけでしょう」
麻原:「(英語を続ける)」
杉本:「私たちの刑が確定した段階で、あるいはその後死を迎えるまでの間に、例えば、私たちはあなたにだまされたと、あなたを信じた自分がバカだったと、あるいは私たちが刑に服することで償えたんだと、そのように考えて自分をごまかすことが可能なんですよ。そうやって自分を納得させることができるわけでしょう。でも被害者の方々はそうはいかないでしょう。自分をごまかすことも、現実から逃避することも出来ないでしょう。その方々に対して、一体どうお詫びすればいいわけですか。一体どうやって私たちは償えばいいのですか
麻原:「これは難しくてね。これ、私、彼らに記憶修習の・・・」
杉本:「難しいんですか。その答えは」
麻原:「テンションズ、だからやめてしまったんだよ」
(中略)
杉本:「まさか、この一連のオウム事件で、あなた、あるいは教団との縁が出来て、未来世において、被害者の方々が救われるなんてバカな考えをあなたは持っているんじゃないでしょうね。」
麻原:「それはシャットアウトしてきているから、そして、思案した上で、何も答えられないんだ・・・」
杉本:「結局、あなたは何も答えられないんですか。最終解脱者としての能力というものはどうしたんですか。」
麻原:「難しいんですよ・・・」

(中略)
豊田:「松本被告、僕は今日、何も言わないつもりで来たんですけれども、今日のあなたの態度を見て考えが変わりました。

あなたはグルなんですか。

グルなんですか。

グルじゃないんならはっきりとさせたらどうですか。
麻原:「・・・・(無言)」
豊田:「質問に答えないで、かわしているだけで。何よりも被害者のことをどう思っているんですか。」
麻原:「・・・・・」
豊田:「あなたの態度を見ていると、自分の公判が長引くのに安住して、現実から逃避しているだけにしか見えないんです。どうなんだ。
どうせ、返事はないでしょう。最後に一点だけ言います。今、教団に残っている人、この現実をしっかり見た方がいいと思います。証人は前回、地下鉄サリン事件は井上と村井に押し切られたと言いました。つまり、彼には弟子を止める力がないわけです。そんなグルについていていいんでしょうか。しっかりと現実を見て欲しいと思います。これ以上過ちを繰り返さないでください。以上です。」

 

この裁判中の杉本・豊田と麻原の対話は、色々考えさせられます。本当はもっと長いので、出来れば『オウム法廷』10を読んでいただきたいです。

なおこの刊では、最後ヤスさんに対する死刑判決と、豊田・広瀬に対する死刑判決、

杉本に対する無期懲役の言い渡しまで詳細に書かれています。

 

最後に、ここに出て来ていない、広瀬健一さんは、1999年4月中旬ごろから時折意味不明なことをいうようになり、弁護人に「やっていることがまとまらなくなった。常に連想ゲームをさせられているようで苦しい」と訴え、一時期は拘置所内の自殺防止の房に移され、さらに声がまったく発せなくなってしまったとのことでした。

広瀬弁護団によると、広瀬は麻原と訣別しきっていたと思っていたが、医師の接見でいまだに麻原を憎めていないと指摘され、深く内省の途中でそのような状態に陥ったのではないか、とのことです。

広瀬健一さんは、一審の死刑判決言い渡しの時は、出廷しました。

 

オウム真理教の振り返りのドラマを作る際、杉本繁郎さんの手記から麻原との出会いや本物と感じてのめり込んでいったところや、関与した事件、そしてこの裁判でのこのやりとりと、オウムと訣別できたと感じられた現在の姿までを辿るようなストーリーであれば、数時間のドラマのなかで、20年分を感じさせられるなにかが見る側に得られるのではないか、と思います。杉本繁郎さんの手記を活用したドラマ制作をお願いしたいと思います。

 

次は、ヤスさんが見た中川さんの一面について書きたいと思います。